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3.分子配向とデバイス特性 (2008-)
Effect of orientation on device performance
研究の内容と経緯
[総説:D. Yokoyama, J. Mater. Chem. 21, 19187-19202 (2011) 4.0MB]
非晶質膜内でも分子形状に応じて一般に分子が配向にしていることが明らかになり、続いて焦点を当てたのは、その分子配向がデバイス特性に与える影響についてです。分子配向が有機ELの電荷輸送特性・光取り出し効率の向上に寄与できるという予想の下、それらを実証するための実験を進めていきました。この時点で進むべき道は明確でしたので、ある意味「芋づる式」に成果を収穫していった形です。
分子間の電荷移動(電荷輸送)速度は、Marcusの理論が示す通り、分子間の軌道の重なりに大きく依存します。有機単結晶、高分子膜、あるいは液晶などにおいては、これまで当たり前に分子配向について議論がなされており、電荷輸送特性等に与える影響についても様々な研究がなされています。しかしながら、非晶質膜においては分子配向そのものが軽視され続けていたため、もちろんその影響についても議論はなされていませんでした。非晶質膜においても分子配向が明らかになった以上、電荷輸送材料の分子配向がデバイスの電荷輸送特性に影響すると予想するのは当然だと言えます。その、ある意味「当然の予想」を実証するために、2つのやり方を採りました。1つは、電荷輸送に関わる軌道(HOMOあるいはLUMO)が同等な分子で、かつ配向性の異なる材料2種を比較するという方法です。もう1つは、同じ材料で配向が異なるよう条件を変えて成膜し比較するという方法です。
前者の方法を行うためには電子状態が同じであることを示す手段が必要になりますが、ある2つの電子輸送材料に注目し、配座計算と分子軌道計算を併用して、それらのLUMOがほぼ同等であることを示すことができました。これらのうち、一方は膜が等方的で移動度は低く、もう一方は大きな異方性を有しており移動度が高いため、比較対象としては好適で、分子の水平配向が電荷移動度の向上に寄与していると結論付けることができました。
D. Yokoyama et al., Appl. Phys. Lett. 95, 243303 (2009)
後者の方法としては、基板加熱成膜による配向変化を見出しました。成膜中であれば、膜の変質を伴わないガラス転移温度以下の低い基板温度でも分子配向が大きく変化することが分かりました。成膜中の基板温度が低温であれば水平に、高温であれば垂直に配向が変化します。これを利用し、配向性が異なる膜を作製して移動度を比較することにより、分子がランダムに配向した膜より水平に配向した膜の方が電荷移動度が高いことを直接実証できています。
D. Yokoyama et al., Adv. Funct. Mater. 20, 386-391 (2010)
多くの有機EL材料の分子は程度の差こそあれ、分子形状に応じて一般に配向しています。これまではそのことが軽視されてきたのですが、分子配向と電荷輸送特性の関係性を改めて考慮すると、過去に報告されている様々な電荷輸送材料、その中でも特に高移動度の材料は膜中で大きく配向している可能性があると考えることもできます。配向性の観点から今一度各種材料の膜物性を改めて見直すことは、大きな意味があると言えそうです。
なお、分子配向が下層による制約を受けないこと、そして分子配向を基板加熱によって変化させることができること、という2つの特徴を活かせば、これまでとは一風変わった層構造を作製することが可能となります。例えば、基板温度を変えて重ねて成膜することで、単一材料のみでも、光学特性・電気特性を厚み方向に変調・制御した「積層構造」を作製することができます。成膜中のin situエリプソメトリー分析を非晶性有機半導体材料に適用し、そのような詳細な分析を実現することもできています。
D. Yokoyama et al., J. Appl. Phys. 107, 123512 (2010)
既にホスト/ゲスト膜中のドーパント分子が配向することも実証できていたため、発光材料の分子配向を有機ELの光取り出し効率の向上に利用できることは明確となりましたが、その効果を実際のデバイスで実証するためには、微量にドープされた発光分子の配向度をできる限り定量化する必要がありました。それを調べるため、ドイツの研究グループに研究の構想とアイデアを提供し、光取り出し効率向上の実証に向けて共同研究を進めました。ガラス基板上に発光分子を局所ドープした層構造を作製し、そのPL発光スペクトルの角度依存性を調べることで、微量のドーパント発光分子の配向度を定量評価できるようになりました。
J. Frischeisen, D. Yokoyama et al., Appl. Phys. Lett. 96, 073302 (2010)
発光分子からの光放射方向は、主にその分子の遷移双極子モーメントに対して垂直な方向となります。発光分子がランダム配向している場合、その膜内では水平配向した分子と垂直配向した分子が混在していますが、垂直配向した分子から基板水平方向に出射する発光は、透明電極/ガラス界面、およびガラス/空気界面の屈折率差が大きいため、界面で全反射されデバイス外部への発光に寄与することができません。そのため、発光分子がランダムに配向している通常の低分子有機ELでは内部の発光のうち2~3割程度しか外部に取り出すことができないと言われていました。しかし、筆者らが発光分子の水平配向(微量ドーパントでも起こる)を明らかにしたことにより、光取り出し効率の大幅な向上が見込めるようになりました。発光分子の遷移双極子モーメントを基板面に対して水平方向に配向させることは、デバイスとしての発光に寄与できない非効率な垂直配向分子を除外することに相当し、光取り出し効率が1.5倍程度向上します。
デバイスによる実証に向け、ドーパントの配向度の定量評価に続き、さらにホスト膜中でランダム配向した発光分子と大きく水平配向した発光分子を用いてデバイス特性の評価・比較を行いました。配向度の違いに対応して外部量子効率が1.45倍に向上し、低分子有機ELにおいて初めて発光分子の配向による光取り出し効率の向上を実証することに成功しています。
J. Frischeisen, D. Yokoyama et al., Org. Electron. 12, 809-817 (2011)