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5.高効率遅延蛍光ELの分析 (2011-)
Analysis of high-efficiency delayed-fluorescence OLEDs
理論限界の大幅な見直しへ
現在有機EL研究は成熟期を迎え、その発光効率も理論限界に近づきつつあります。そのような中、従来考えられてきた発光効率(外部量子効率)の理論限界を大きく超える高効率蛍光有機ELが報告されています。外部量子効率の理論限界は、通常次の式から算出されます。
ηEQE = γ × r × q × η
ηEQE:外部量子効率
γ:キャリアバランス、r:放射遷移許容励起子の生成効率、q:発光量子収率、η:光取り出し効率
長らくの間、γの最大値は1、rは蛍光材料で0.25、リン光材料で1、qの最大値は1、ηの最大値は0.2程度と考えられてきました。これを基にEQEの最大値を計算すると、蛍光有機ELで0.05(5%)、リン光有機ELで0.2(20%)程度となります。これらの数字が有機ELのEQEの理論限界であるものと信じられていました。しかし、近年はこの理論限界を上回る蛍光・リン光有機ELが相次いで報告され、理論限界の見直しが行われています。
まず、光取り出し効率ηの最大値が、光学計算・実験の結果から見直され、適切な層構造の構築により0.3程度まで向上することが分かっています。さらに近年は、光化学に基づいて適切な材料設計を行うことで、三重項励起子(T1)を一重項励起子(S1)に変換し、その遅延蛍光によって蛍光材料のrを著しく向上できることが分かってきました。比較的安価な蛍光材料で、リン光材料相当のrを達成できる訳です。その機構は大きく分け、(i)T1-T1消滅(triplet-triplet annihilation: TTA)を経て生じたS1からの遅延蛍光、(ii)熱によるT1からS1への逆項間交差を利用した熱活性化遅延蛍光(thermally activated delayed fluorescence: TADF)の2つが知られています。現在のところ、原理的にrの最大値は前者で通常の蛍光材料の2.5倍(r=0.625)、後者で4倍(r=1)になると考えられています。
しかし、これら遅延蛍光の効果を含めても、それでも実験で得られた高いEQEを説明できないことがあります。そのような高効率蛍光有機ELに対する機構解明が求められていました。その要因として重要なものが発光分子の遷移双極子モーメントの配向であり、これを利用することにより光取り出し効率ηが最大で1.5倍程度向上することは「分子配向とデバイス」に記載したとおりです。我々は、S1生成効率の向上による遅延蛍光の評価に加え、発光分子の遷移双極子モーメントの配向を評価することにより、遅延蛍光と分子配向の両方が蛍光有機ELの極めて高い効率に寄与していることを初めて明らかとしました。
(本研究は韓国カトリック大学J. Park研究室との共同研究です。)
D. Yokoyama et al., Appl. Phys. Lett. 99, 123303 (2011)
B. Kim et al., J. Mater. Chem. C 1, 432-440 (2013)
最近は、分子配向を利用した光取り出し効率向上技術は国際的にも広く認知され、国内外で研究が進んでいます。リン光材料への適用により30%を超えたEQEも報告されつつあり、理論上は45%を超えるEQEが達成可能であると試算されています。