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7.屈折率制御・光伝搬制御 (2012-)
Controls of refractive index and light propagation
有機半導体デバイスの光学設計自由度の拡張へ
これまで長らく、非晶質有機半導体の屈折率は透明領域で通常1.7~1.8程度だと考えられており、材料間で大差ないものと認識されていました。一方で無機半導体は、例えばIII-V族の元素組成をチューニングすることで、バンドギャップと屈折率の同時制御が可能となっています。有機半導体においても、屈折率の変調を行うことができればデバイス内部の有機半導体膜自身で電荷と光伝搬を制御することが可能となり、有機半導体デバイスの光学設計の自由度は格段に広がることとなります。しかし、過去にそのような研究例はありませんでした。
有機材料の屈折率制御は決して不可能ではなく、実際に行っているよく知られた例として、プラスチック光ファイバ(plastic optical fiber: POF)の研究が挙げられます。POF研究においては高分子の適切な材料設計によりその分極率が制御されており、一般に有機分子の分極率は、発達したπ共役系および硫黄含有基によって特に大きくなり、飽和炭化水素およびフッ素基よって特に小さくなることが知られています。分子分極率の変化は固体としての屈折率の変化に直接相関するため、これらの因子によってPOF材料の屈折率が制御されています。
これらに加え、非晶質有機半導体蒸着膜では、「非晶質膜中の分子配向」に記したとおり、分子配向により屈折率の異方性(複屈折)が変化するため、分子配向を用いて屈折率を制御することが可能となります。基板水平方向の屈折率は、水平配向では大きくなり、垂直配向では小さくなります。このように、複屈折を積極的に利用することができます。したがって、(1)共役系、(2)含有元素(硫黄、フッ素等)、(3)分子配向、を屈折率制御因子とすることができ、これらによって有機半導体蒸着膜の屈折率を広く制御することを目指してきました。
また、光学素子の設計・作製を行う上で屈折率と同様に重要になるのが膜厚の精度です。そこで我々は、光透過率を測定しつつ有機半導体薄膜を真空蒸着できる装置を作製し、成膜中の光透過率の変化に応じてシャッターの開閉を行うことで、光学膜厚の誤差がほとんどない理想的な有機光学積層構造の作製を可能にしました。
これまで、上記の制御因子を用いて有機膜の屈折率制御を行い、有機固体として極めて大きな屈折率差0.58(@532nm)が実現できています。さらに、その高屈折率/低屈折率の膜を用いてλ/4交互積層膜を作製することで一次元フォトニック結晶とし、通常の金属電極の反射率(~95%)を凌駕する超高反射率有機半導体DBR(distributed Bragg reflector: 分布ブラッグ反射器)を実現しています(反射率>98%、反射帯域幅>100nm)。過去に報告されている有機材料を用いたDBRに比べ、屈折率差が格段に大きく、かつ膜厚制御が精密であるため、層数も少なく、反射率も極めて高い値が達成できています。フォトニックバンドギャップに相当する反射帯域幅も比較的広いため、現実的な光デバイス応用も見えてきます。
特に重要なのが、このような光学素子を有機半導体材料を用いて作製できるという点です。電荷を流すことができるため、有機半導体デバイス内部で用いることが可能となります。実際、上記のDBRを透明電極と半透明電極で挟んだところ半導体としての特性を示し、赤色光を透過し、緑色光を反射し、青色光を電気に変換する特異なデバイスが得られています。
このDBRデバイスはあくまで屈折率制御・光伝搬制御のデモンストレーションの一例であり、この大きな屈折率差を活用することで、様々な有機光エレクトロニクスデバイスへの応用の可能性が出てくると考えています。例えば、反射防止膜・バンドパスフィルタ・波長選択ミラー等の光学デバイスを有機半導体デバイスの内部・外部に設けることができます。また、POFに見られるような、光閉じ込めのためのコア/クラッド構造を有機半導体デバイスの内部に設けることができますし、有機半導体DBRをデバイス内部に設けることで、無機半導体のVCSEL(vertical cavity surface emitting laser: 垂直共振器面発光レーザ)のようなデバイス構造を作製することもできます。我々はこのような、有機EL等の「有機エレクトロニクス技術」とPOF等の「有機光制御技術」を融合させたオリジナルな研究領域の開拓を提案しており、真の有機「光」エレクトロニクス技術の構築に向けて研究をさらに発展させていきたいと考えています。
D. Yokoyama et al., Adv. Mater. 24, 6368-6373 (2012)