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4.分子間水素結合による配向 (2010-)
Orientation using intermolecular hydrogen bonds
研究の内容と経緯
[総説:D. Yokoyama, J. Mater. Chem. 21, 19187-19202 (2011) 4.0MB]
分子形状の異方性により分子が配向するという結果は、配向をデバイスで利用するために非常にシンプルな材料設計指針を提供します。また、成膜中の基板温度により配向が水平・ランダム・垂直に変化するという結果は、成膜条件による配向の制御法を提供します。しかし、さらに応用範囲を広げていくためには、コンパクトな形状、あるいはかさ高い形状を持つ分子の配向も制御することができる技術が望まれます。そのためには、より化学的な手法で能動的に分子の配向を制御する手法が必要となります。
近年、ピリジル基を有する電子輸送材料の特異的な分子配向を明らかとし、化学的な配向制御法につながる可能性を示すことができました。これまでのような分子形状によるものではなく、分子間のC-H...N水素結合に起因しています。分子外縁部にピリジン窒素を有する分子に限って、C-H...N水素結合を分子間で形成して平面性の高い構造を形成するために、分子が蒸着膜内で層構造を形成します。溶解性・電子移動度等からこのような配向の可能性が想定されていましたが、分光エリプソメトリー、紫外・可視吸収、X線回折、IR吸収、電子状態・振動モードの量子化学計算による多角的かつ包括的な分析から、初めて分子間水素結合による有機半導体蒸着膜内の特異な層構造を実証することができ、分子間水素結合に起因した分子層構造形成による電荷輸送特性の向上を示すことができました。
(本研究は山形大学城戸・笹部研との共同研究です。)
D. Yokoyama et al., Adv. Funct. Mater. 21, 1375-1382 (2011)
有機EL中の分子配向の描像をまとめると、以下のようになります。まず、1987年のTangらによる有機ELの発表以来、長年有機EL中の分子はランダムに配向していると考えられてきました。これは特に誤った考え方というわけではなく、非晶質膜を用いる有機ELにとって、研究当初は分子配向よりも重要度・優先度の高い諸特性が山ほどありました。つまり、当時有機ELにとって分子配向はある意味些細な問題であり、分析も容易でなかったため、分子配向を無視することは研究初期の「0次近似」としては適切であったと思います。しかし現在、有機ELのデバイス特性は著しく向上し、評価・分析技術も大きく向上してきたため、従来のランダム配向の仮定では説明できない実験結果も数多く出てきました。有機EL研究の著しい発展ゆえに、分子配向等の分子集合状態に関する因子を無視できない状況になってきたと言えます。そして分子形状の異方性による配向が「1次近似」の摂動となり、さらに化学的な分子間相互作用による配向が「2次近似」の摂動となって、有機EL中の分子配向に関する理解と制御技術がさらに進みつつあります。